法務・知財部門向けAI研修:DX推進で業務効率化とリスク管理を両立
法務・知財部門のAI活用はDX推進の必須課題。本記事では、契約書レビューや知財調査の効率化を実現するAI研修の具体例と導入効果を解説。リスク管理を強化し、生産性を向上させる秘訣を紹介します。
現代の企業経営において、人工知能(AI)、とりわけ高度な自然言語処理能力を持つ生成AIは、単なる便利なツールを超え、企業の競争優位性を決定づける中核的なインフラへと進化を遂げています。2026年現在、この技術的潮流は「AX(AIトランスフォーメーション)」と称され、企業が持続的に発展するための最重要課題として位置付けられているのですよね。
しかし、企業の事業部門が積極的にテクノロジーを導入する一方で、企業の権利を保護し、厳格なコンプライアンスを維持する役割を担う「法務・知財部門」におけるAIの実装は、深刻な停滞に直面しているのが実態です。契約書のドラフティング、特許明細書の作成、先行技術調査、コンプライアンス体制の構築といった日常業務は、生成AIの膨大なデータ処理能力と高い親和性を持っているにもかかわらず、導入が遅れている背景には、ITリテラシー不足だけではない、法務部門特有の組織文化と専門的スキルの欠如が存在しています。
本記事では、法務・知財部門のAI活用に向けた課題を詳細に分析し、その解決策となる「オンラインAI研修」の具体的なカリキュラム設計、導入効果、そしてリスク管理と生産性向上を両立させる実践的知見を提示します。法務・知財部門がいかに旧来の役割から脱却し、事業を牽引する存在へと進化すべきか、その確かな道筋を描き出します。
法務・知財部門のAI活用が遅れる理由
2025年に実施された大規模な市場調査は、法務・知財部門における生成AIの導入状況に関して、憂慮すべき実態を明らかにしています。
マッキンゼーの2025年「AI現状調査」によると、企業内の主要なビジネス機能間における生成AIの利用率には、明確な断層が存在することが判明しました。マーケティング・営業部門では過半数の55%が生成AIを日常業務に組み込んでいるのに対し、リスク・法務・コンプライアンス部門の利用率はわずか29%にとどまり、主要機能の中で最下位グループに沈んでいます。
この数字の背後には、組織ガバナンス上のより深刻なリスクが潜んでいます。トムソン・ロイターの2025年調査では、法務専門家の50%以上が「個人的に生成AIを使用している」と回答しているにもかかわらず、「組織レベルでの公式な業務プロセスとしての積極的な利用」に至っているケースはわずか22%に過ぎないことが報告されています。これは、企業の機密情報が管理外のAIに入力される「シャドーAI(Shadow AI)」の温床となっており、情報漏洩を防ぐべき法務部門自身が新たなセキュリティリスクを抱え込んでいる状態を示唆しているでしょう。
さらに、PwCの2025年調査では、日本企業における生成AIの活用効果は他国と比較して低迷しており、「導入効果が期待以上である」と回答した企業の割合は、米国や英国の約4分の1にとどまる結果が出ています。これはAIツールの性能不足ではなく、AIを使いこなすためのプロンプトエンジニアリングや、AIの出力を前提とした業務フローの再構築が伴っていないことに起因すると考えられます。
特に知財部門では、約98%の企業が生成AI導入を「有益」と評価し、96%が「既に何らかの形で導入している」と回答しながらも、「AIを適切に運用し、業務に実装できる専門人材の不足」が2割を超える企業でボトルネックとなっていることがデロイトの2025年調査で明らかになりました。
これらのデータが示す本質的な課題は、現代の法務・知財部門において決定的に欠如しているのは「AI技術への関心」や「ツール導入予算」ではなく、「AIの出力結果を正確に評価し、ハルシネーション(AIがもっともらしい虚偽情報を生成する現象)を排除して実務レベルの品質に引き上げる専門的応用能力」である、ということでしょう。この能力の欠如こそが、AIに対する過度な恐怖心を生み、「安全のために使わない」という硬直化したリスク回避姿勢を助長する根本原因となっているのです。
AI時代に求められる法務部門の役割
2026年を迎え、AIは企業のビジネスモデルや労働市場、社会構造そのものを変革する原動力となりました。このAX(AIトランスフォーメーション)の推進において、法務部門の役割は劇的かつ不可逆的な転換を迫られています。
従来の法務部門は、事業部門が立案した新規事業や契約案件に対して、あらゆる法的リスクを洗い出し、トラブルを未然に防ぐ「ストッパー」としての役割に絶対的な価値を置いてきました。しかし、変化のスピードが極めて速いAX時代においては、すべての法的リスクをゼロに抑え込むことは事実上不可能ですよね。過度なリスク回避姿勢は、かえって競合他社に対する遅れを招き、企業の成長機会を致命的に奪う「最大の経営リスク」そのものとなり得るのです。
そこで強く求められるのが、法務部門自身が「事業の成長に必要な適切なリスクを見極め、許容範囲内で戦略的にリスクを取る(リスクテイキング)」ためのマネジメント機能への転換です。経営層から現場に至るまで、AIとどう向き合い持続的発展を遂げるかという戦略的視座が不可欠と言えるでしょう。法務部門が先陣を切って最先端のAIを使いこなし、その技術的限界と圧倒的な可能性を実体験として理解することによってのみ、事業部門がAIを活用した新規ビジネスを立ち上げる際の実効性のある法的アドバイスが可能となります。自らがAIのポテンシャルを享受できていない法務部門に、全社的なAXを安全に牽引することはできないのではないでしょうか。
リスクテイキング・マネジメントを実務として実践するためには、法務担当者の直感や過去の経験則に頼るのではなく、科学的かつ定量的なアプローチでAIのリスクを評価・統制するフレームワークが不可欠です。国際的なAIガバナンスの潮流は、現在「信頼できるAI(Trustworthy AI)」の構築という概念へと収斂しています。AI導入時のリスクを定量的に評価し、低減する具体的な手法として「ベンチマーキング(比較評価)」の役割が極めて重要視されています。
法務・知財部門は、こうした最先端のリスク評価手法を学習し、自社のAIシステムが個人情報保護法、著作権法、さらには内閣府の「人間中心のAI社会原則」や経済産業省の「AI・データ契約ガイドライン」などの各種法規制・社会規範に適合しているかを客観的に評価する能力を身につけなければなりません。これは、法務部門向けのAI研修が、単なる「プロンプトの打ち方」にとどまらず、「AIの基礎技術メカニズム」と「グローバルな最新法規制動向」を不可分なセットとして学ぶ高度なプログラムであるべきことを意味しています。
法務・知財向けAI研修の具体例
組織の公式なAI導入率が22%に低迷し、知財部門における専門人材の不足が叫ばれる現状を打破するための最も有効かつ即効性のある手段が、法務・知財部門の特殊性に特化した体系的な「AI研修」の全社的実施です。一般的なビジネスパーソン向けのAI研修では、高度な専門性と正確性が求められる法務・知財業務の変革には直結しないでしょう。
実務に即した高度なAI研修に求められる具体的なカリキュラム内容、受講形式、およびその設計思想を詳しく解説します。
実践的プロンプトエンジニアリングと業務特化型学習
生成AIの潜在能力を極限まで引き出し、法務実務に耐えうる品質のアウトプットを得るための核心は、「プロンプトエンジニアリング(AIに対する指示の設計技術)」にあります。法務・知財業務向けの研修では、単にAIに質問を投げるのではなく、AIに対して以下の要素を厳密に定義し、期待する精度の回答を安定的かつ再現性をもって引き出す手法を習得する必要があります。
- Role(法的専門家としての役割)
- Context(契約の背景や前提条件)
- Constraint(法令に基づく制約条件)
- Format(条項案や表形式などの出力形式)
このような網羅的な研修を通じて、受講者は「AIは決して万能の魔法の杖ではなく、適切な指示文脈を与えれば超高速で下書きを作成し、論点を提示してくれる極めて優秀なアシスタントである」という正しい認識を形成します。
具体的な研修モジュール例
- AIモデルの基礎と特性理解: 主要3モデル(GPT-4、Claude 3、Gemini等)の特徴と業務に応じた使い分け、最も重要な「ハルシネーションの回避」メカニズムの習得。
- 法務実務におけるテキスト処理: 複雑な長文契約書の要約と表形式での論点抽出、多言語契約書の高精度な翻訳、文章スタイルの変換、法務チェック(特定条項の自社への有利・不利判定)。
- コーポレート・周辺業務の効率化: 会議の議事録自動作成、社内規定(コンプライアンス規程や情報セキュリティ規程等)の雛形作成、社内向けコンプライアンス研修資料の自動生成。
- GPTs(カスタムAI)の構築・運用: 既存GPTsの効果的活用、自社の法務ナレッジや過去の契約書データを安全に学習させた「新規GPTs(自社専用AIアシスタント)」の作成方法。
- 知財・リサーチ業務の高度化: Webブラウジング機能を用いた市場調査(先行事例や特許情報の収集)、アンケートデータの集計・分析と視覚化(グラフ作成)による知財戦略立案の支援。
特に、研修において「ハルシネーションの回避」に関する学習は法務部門にとって生命線となるでしょう。AIが提示した法的解釈や判例をそのまま鵜呑みにするのではなく、必ず原典(法令データ提供システムや公式な判例検索システム)で裏付け(ファクトチェック)を行うプロセスを業務フローの標準として組み込むことが、法務・知財部門におけるAI活用の大前提となります。
オンライン形式による継続的学習環境と資格取得のインセンティブ
法務・知財部門は日常的に膨大な契約審査や知財管理業務を抱えており、長期間にわたって現場を離れる集合型研修の実施は物理的に困難です。したがって、時間や場所の制約を受けずに、各人の業務ペースに合わせて受講できる「オンライン研修」のプラットフォームが極めて有効なソリューションとなるでしょう。
例えば、完全在宅での受講が可能なオンライン形式のプログラムでは、3ヶ月間といった一定期間にわたる継続的な学習が可能です。これは単発のセミナーでは決して得られない、深い技術的理解とスキルの定着を促します。法務担当者は学んだプロンプト技術を翌日の実際の契約書レビューで実践し、その結果をフィードバックとして再び学習に活かすという反復学習(サイクル)を回すことができます。
また、こうした研修の受講費を会社が全額負担し、内容の開示と明確な評価制度、さらには資格取得と連動させる仕組みを構築することで、従業員のモチベーションを飛躍的に高め、組織全体のDX推進に向けた機運を醸成することが可能となるでしょう。
さらに、AIの技術的進化とそれを取り巻く法規制のアップデートは日進月歩であるため、一度の研修で完結させるのではなく、継続的に最新動向をインプットする機会を設けることが不可欠です。例えば、企業知財部、特許担当者、弁理士などを対象に「生成AI時代に知財担当者が最低限知っておくべきこと」を整理するようなオンラインセミナーは、知識を常に最新状態に保つための継続的な学習ソースとして積極的に活用されるべきです。日本弁理士会(JPAA)と日本知的財産協会(JIPA)が継続的に意見交換を実施していることからも、法務・知財領域における継続学習の重要性が業界全体のコンセンサスとなっていることがうかがえますね。
全社的AIガバナンスと法務の役割
研修を通じて個人のAIリテラシーを高めることと並行して、組織が全社的なDXを安全に推進するために取り組むべき最重要課題が「生成AIガイドライン」の策定と運用です。これは、単に「AIを使ってはいけない」という禁止事項の羅列ではなく、従業員が安全な環境でAIを最大限に活用し、業務効率化と新しい価値創造を実現するための「前向きなルールブック」でなければなりません。
ガイドライン策定によって得られる具体的なメリット
適切な生成AIガイドラインを整備することで、企業は以下のような具体的かつ強力なメリットを享受することができます。
- 業務効率の劇的な向上: 安全な利用範囲(入力してよいデータの種類など)が明確になることで、現場が迷わずAIを利用できるようになります。資料要約や議事録作成などの定型業務をAIが代行し、従業員は高度な判断を要するコア業務に集中できるでしょう。
- 新たなアイデアの創出: セキュアな環境下でAIとの対話(ブレインストーミング)を重ねることで、斬新な企画やサービスのヒントを得られます。法的観点からの新しいビジネスモデルの適法性検証をAIと壁打ちすることも可能ですよね。
- コンプライアンスリスクの低減: 未公開の顧客データ、機密性の高い技術情報、個人情報の入力を明確に禁止・定義することで情報漏洩を根絶します。また、AIの出力をそのまま利用することによる著作権侵害リスクを防ぎ、企業の社会的信用を強固に維持できるでしょう。
法務部門が主導するガイドライン策定の実践的ステップ
生成AIガイドラインの策定は、情報システム部(IT部門)単独で行うべきものではありません。技術的セキュリティの理解と、法的解釈・コンプライアンスの双方を高度に併せ持つ法務部門こそが、主導的役割を果たすことが理想的です。国、自治体、学校、企業それぞれの事例を参考にしながら、自社の組織特性に応じたルールを定める際、以下のステップを踏むことが推奨されます。
特に重要なのが、ガイドラインの最終的な承認と社内浸透を担う「関連部署の承認を得て、社内へ周知する」プロセスです。作成したガイドライン案を単に配布するのではなく、法務部や情報システム部、経営層に対して以下の準備を整えた上で説明を行い、組織的な合意形成を図る必要があります。
- 関係部門への事前説明と懸念払拭: 各部門からの想定懸念(例:営業部門からの「制限が厳しすぎて使えないのではないか」という懸念や、IT部門からの「セキュリティインシデント時の責任所在」など)をあらかじめ抽出し、具体的な対策を提示します。
- リスクと対策の明確化: 2026年時点の最新のAI法規制や、マルチモーダルAI特有のリスクに対する防衛策を明文化します。
- 導入効果の数値化: ガイドラインに基づく安全なAI利用が、全社でどれだけの労働時間削減(コストダウン)につながるかというROI(投資対効果)を経営層に提示しましょう。
- 全社員への周知と教育計画: ガイドラインを制定して終わりではなく、それを現場に定着させるための説明会や前述のオンライン研修の実施計画をセットで策定することが大切です。
このように、法務部門自身がAIの仕組みと限界を深く理解していなければ、実効性のあるガイドラインを作成し、全社のステークホルダーを説得することは不可能ではないでしょうか。法務向けAI研修は、法務部門自身の業務を効率化するためだけのものではなく、全社的なAIガバナンス体制を構築するための必須の基盤投資でもあると言えるでしょう。
AIが変革する法務・知財業務プロセス
法務・知財部門の業務は多岐にわたりますが、それぞれの具体的な業務プロセスにおいてAIをどのように組み込み、DXを実現していくべきか、最新のリーガルテックツールの機能と併せて、導入効果を検証します。
契約マネジメントライフサイクルの高度化と自動化
企業の法務業務において、最も多大な人的リソースを消費しているのが契約書の作成・審査プロセスです。一般的な契約業務は、「作成」「審査」「必要に応じて修正交渉」「締結」「保管」という複数の段階(ライフサイクル)を経て進行します。生成AIと専用のリーガルテックツールを導入することで、これらすべてのフェーズにおいて劇的な効率化がもたらされます。
- 作成(ドラフティング)の高速化: 研修で学んだプロンプトエンジニアリングを活用し、取引の概要や必須条件、自社の基本方針を箇条書きで入力するだけで、AIが自社の雛形や過去の類似案件を参照しながら、契約書の初期ドラフトを数秒で生成します。これにより、ゼロからの起案にかかる時間を圧倒的に削減できるでしょう。
- 審査(レビュー)の精緻化: AI契約レビューツールや生成AIを用いることで、自社にとって不利な条項、欠落している必須項目、最新の法令違反リスクを瞬時にハイライトさせることが可能になります。担当者の役割は「間違い探し」から、AIが指摘したアラートの妥当性を確認し、最終的なビジネス上の法的判断を下す高付加価値な作業へとシフトするでしょう。
- 修正交渉(レッドライン)の論点整理: 相手方からの修正要求に対して、なぜその条項が受け入れられないのか、代替案としてどのような文言が妥当であるかをAIに壁打ちさせることで、交渉の論点を迅速に整理し、ロジカルな反論材料を構築できます。
- 保管とナレッジマネジメントの自動化: 締結済みの膨大な契約書群を単にPDFとして保存するのではなく、AIの自然言語処理を活用して「特定の解除条項が含まれている契約の一覧」や「有効期限が迫っている契約」などのメタデータを自動抽出し、全社的なナレッジベースとして可視化・再利用可能な状態にします。
また、弁護士などの専門家が案件管理にITツールを活用する事例においても、生成AIの技術を応用した機能が威力を発揮しています。例えば、案件履歴メモを活用することで、過去の経緯を踏まえた正確かつ迅速な事件処理と適切な顧客対応が可能となり、事件データの自動反映による徹底的な書類作成の効率化が実現しているのですよね。さらに、システム上での伝言連携機能により、担当者間のコミュニケーションミスを防ぎ、漏れなく正確な業務処理が担保されるようになっています。これらの実例は、法務業務におけるテキスト処理の自動化がすでに実証済みの確かな効果をもたらしていることを証明しているのです。
知財調査・特許業務の効率化と戦略的リソースの創出
知的財産部門においても、AIによる業務改革の余地は極めて大きいと言えるでしょう。特許出願前の先行技術調査においては、膨大な特許文献や海外の学術論文を読み込む必要がありますが、AIのWebブラウジング機能や翻訳・要約機能を活用することで、関連文献の抽出から技術的類似性のスコアリングまでを高速で行い、調査期間を大幅に短縮できます。
また、特許明細書の作成支援においても革新が起きています。発明者へのヒアリングメモや粗い技術資料を入力するだけで、特許請求の範囲(クレーム)の草案や実施例の詳細な記述をAIに生成させる試みが実用化の段階に入っています。知財担当者はゼロから文章を執筆するのではなく、AIが生成した草案の技術的正確性や権利範囲の妥当性を審査・補正する「高度なエディター」としての役割が強まることになるでしょう。これにより生み出された膨大な余剰時間を、自社の特許ポートフォリオの多角的な分析や、競合他社のIPランドスケープ分析といった、より戦略的かつ経営に直結する付加価値の高い業務に振り向けることが可能となります。
法務DXの失敗を防ぐための「現場への定着」3ステップ
高度なAIツールやシステムを導入しただけで、自動的にDXが成功するわけではありません。法務DXの失敗の多くは、トップダウンで導入されたツールが現場の既存の業務フローに適合せず、結果として「使い方がわからない」「従来の手作業の方が安心できる」という理由で放置されることによって起こります。この事態を防ぐためには、現場に根付く導入のステップを計画的に踏むことが強く求められるでしょう。
- スモールスタートによる成功体験の蓄積: まずは特定のチームや、リスクの低い定型的な契約類型(秘密保持契約や業務委託契約など)に限定してAI利用を小さく始め、AIの出力精度や使い勝手を現場レベルで検証します。
- サクセスストーリーとナレッジの共有: スモールスタートで得られた成功体験(例:「契約書レビューの時間が半分になった」)と、その際に実際に使用した具体的なプロンプトの記述例を社内で共有し、他のメンバーの心理的ハードルを下げます。
- 業務プロセスへの不可逆的な組み込み: 最終的に、AIの利用を「選択肢」ではなく、業務プロセスの「必須要件」として設計し、ガイドラインの遵守度やAIを活用した効率化の成果を人事評価制度と連動させることで、組織全体に完全に定着させていくのです。
この一連の変革プロセスをリードし、現場の抵抗感を払拭しながらDXを推進していくのも、オンライン研修によって体系的なAI知見とマネジメント手法を獲得した次世代の法務・知財人材の重要な使命と言えるでしょう。
未来を見据えたリーガルテックと新リスク
現在進行中のAI技術の爆発的な進化を踏まえると、2026年以降の法務・知財部門を取り巻く環境は、さらに高度化・複雑化することが確実に予想されます。法務部門は、常に一歩先を見据えた対応を迫られることでしょう。
法規制とガバナンスの動的変化への対応
日本国内における「AI法とガバナンス」は、かつての総論的・抽象的なガイドラインのフェーズを終え、より実効性を伴う各論的な法規制と執行のフェーズへと完全に移行しています。企業はAI・データ活用の取り組みにおいて、内閣府の原則や経済産業省の「AI・データ契約ガイドライン」、個人情報保護法など、多岐にわたるコンプライアンスの遵守が厳格に求められるようになっているのですね。
法務部門は、単に自社で策定したAI利用ガイドラインを保守・運用するだけでは不十分です。これらの最新の法規制動向や、海外におけるAI規制(欧州AI法の本格適用や米国各州のプライバシー法など)の域外適用リスクを常にモニタリングし、自社のビジネスモデルがグローバルな法規制に抵触しないことを担保する「全社AIガバナンスの司令塔」としての役割を担うことになるでしょう。そのためには、法律事務所が主催する高度な専門セミナーや、国内外の研究機関から発信される最新の知見を継続的に学習し、社内の内部規程をアジャイル(俊敏)にアップデートしていく柔軟な体制が不可欠です。
マルチモーダルAIの台頭と非定型業務への拡張に伴う法的課題
さらに特筆すべき技術的進化は、生成AIがテキスト情報の処理にとどまらず、画像、音声、動画、プログラミングコードといった複数のメディアを横断的に生成・処理する「マルチモーダルAI」へと発展している点です。すでに画像生成AIや動画生成AI、音楽生成/音声合成といったマルチモーダルAIの業務利用は現実のものとなっています。
これに伴い、法務・知財部門が審査すべき対象領域も劇的に拡大しているのですね。例えば、自社のマーケティング部門が画像生成AIや動画生成AIを用いてプロモーション素材やSNS投稿用のショートムービーを作成する場合、法務部門はこれまで経験したことのない全く新しい形態の法的チェックを行う必要が生じます。
- 生成された画像が、既存の著作物に酷似しており、依拠性が認められることで著作権侵害を構成しないか。
- 生成AIの学習データに含まれていた実在の人物の顔や声を出力してしまい、肖像権やパブリシティ権(音声の無断利用など)の侵害にあたらないか。
このような未知のリスクに対処するためには、法務担当者自身が「AIがどのように画像を生成し、なぜ既存のデータに似てしまうことがあるのか」という技術的メカニズムを、実機を通じた研修経験によって深く理解していることが絶対条件となります。
さらに、プログラミング言語に対するAIのコーディング支援能力を活用する領域も見逃せません。法務部門の担当者自らが、AIのサポートを受けながらノーコード・ローコードツールを用いて簡易的な法務ポータルサイトを社内構築したり、頻出する法務相談に自動回答する社内FAQチャットボットを作成したりするといった「リーガルオペレーションズ」の高度化が、ITベンダーに依存することなく内製化できるようになるでしょう。これにより、法務部門は従来の「コストだけを消費する管理部門」から、全社の業務効率を高め、間接的に企業の利益創出に貢献する「バリュークリエイター」へと自己変革を遂げることができます。
AI研修が切り拓く法務・知財部門の次世代モデルと新たな価値創造
本記事の分析を通じて明らかになったように、法務・知財部門における生成AI活用の深刻な遅れは、部門が歴史的に内包する本質的な「リスク回避のDNA」と、それを乗り越えるための「AIと法務を架橋する専門的スキルの欠如」に起因しています。営業やエンジニアリングなど他部門が急速にDXを推進し、AIを前提とした圧倒的なスピードで事業を展開する中で、法務・知財部門が従来の労働集約的なアナログ業務に固執し現状維持を続ければ、法務チェックの遅れが全社的なイノベーションのボトルネックとなり、ひいては企業の競争力を著しく削ぐ結果となるでしょう。
この膠着状態を打破し、リスク管理と生産性向上という一見相反する要素を高い次元で両立させるための最適解は、「法務・知財領域の特殊性に完全に最適化されたAI研修の実施」に尽きると言えるでしょう。世の中に溢れる一般的なAI研修ではなく、法務特有の緻密なプロンプトエンジニアリング、ハルシネーションの発生を前提とした強固なクロスチェック体制の構築、マルチモーダルAIがもたらす新たな権利侵害リスクの理解、さらには自社専用の生成AIガイドライン策定プロセスまでを網羅した、極めて実践的かつ高度な教育投資こそが、今まさに求められているのではないでしょうか。時間と場所の制約を受けないオンライン形式の研修プログラムは、多忙な法務担当者にとって最も現実的で効果の高い学習環境を提供するでしょう。
AIは、法務・知財担当者の仕事を奪う脅威ではありません。むしろ、何時間も費やしていた契約書の一次チェック、膨大な先行技術文献の要約、議事録の作成といった定型的・反復的な作業から人間を解放する強力な味方となるはずです。テクノロジーによって生み出された時間は、経営層への戦略的なリーガルアドバイスの提供、複雑に絡み合う利害関係の調整、前例のない新規ビジネスの適法性検証、そして未知の法的リスクに対する高度な判断といった、人間本来の創造性、共感力、そして倫理観が問われる「真のコア業務」に回帰するために使われるべきでしょう。
企業経営者および法務・知財部門を牽引するリーダーは、AI導入に対する漠然とした恐怖や認知バイアスを早期に払拭し、旧来の「リスク回避型」から、戦略的にAIを活用して事業を前進させる「リスクテイキング・マネジメント型」への抜本的な意識改革を決断すべきです。その確固たる第一歩として、組織全体を巻き込んだ体系的かつ継続的なオンラインAI研修を導入し、従業員一人ひとりのAIリテラシーを最高水準に引き上げることこそが、DX推進による法務部門の業務効率化と厳格なガバナンスを同時に実現し、激動のAX時代において次世代の企業競争力を獲得するための最も確実な道筋となるでしょう。
